文化祭では、クラスの出し物ともう一つ。学年クラス関係なしの美男美女を決めるコンテスト"通称美コン"も行われる。一般と生徒の投票から選ばれるグランプリは、選ばれたクラスに金一封が送られる事で、皆が力をいれるイベントの一つだ。

「誘うのは良いけど、多分爽ちゃんの事だし推薦されて美コンに出るんじゃねえの。その場合遊べねえじゃん。」

クラスの出し物より結果が出る美コンに皆が力を入れはじめ、開催当初、文化祭初日のみに行われていたソレが、三日間を通してピーアールから投票まで行われるようになった。

要するに、選ばれれば最後。
文化祭を楽しむ余裕など無くなってしまう。

一日目は生徒のみに開催される出場者発表とクラスの出し物で時間が過ぎ、二日目に一般公開用の出場者発表が待っている。一般公開される分、一日目よりも二日目の方が衣装からなにから全て凝るようになり、加えてクラスの出し物で役になっていればそれだけで二日目は完璧に潰れてしまう。

そして三日目。三日目の投票は昼過ぎに開始される。それにも関わらず、沸き立った会場は三日目の開場時間から既に投票の為の列が出来るほどだった。

実際俺たちも文化祭へ参加するのは今年がはじめてとは言え、去年の高校見学でそれを目の当たりにした時は、人の多さに酔うことしかできなかった。

「あー美コンな。…あれはマジヤバかった。」

「クラス違うし、ましてやアレに爽ちゃんが出ないわけないじゃん。俺だったら一番に推してるわ。でさ、そうなると誘ったところで遊ぶ時間なんて無くなるし、爽ちゃんは絶対俺からだと断ると思う。むしろ、美コンがなくても怖がられてるから、俺と二人で回るとか…無理だわ。絶対。」

「二人が無理なら俺がついてくし。まあ、運良く誘えても遊べないっつーのが問題だもんなぁ…。俺かお前が美コンに選ばれれば、少しはあっちと時間を合わせやすいんだけど。」

「美コンはなぁ。」と二人で去年の人の多さを思いだしながら頭を抱える。うちの高校で、他の学校の文化祭よりも人気なモノが美コンだからか、先輩に毎年あの位の人の多さだと聞いた時は、文化祭をバックレようかとも本気で天と考えるほどだった。

(まあ、美コンが無くても爽ちゃんを誘うとか…無理に近いんだけどな。)

美コンを言い訳にして、断られるのが怖いと言う本心を隠す。笑顔で受け入れてもらえれば、それはそれでもちろん幸せだ。だけど、二人で回るとなったら、きっと爽ちゃんは俺を怖がる。それなら、はじめから誘わない方が彼女の為だ…。

花が小さく咲くようにふわりと笑う彼女の笑顔を思い浮かべる。綺麗に施した大人っぽい化粧が、笑顔一つで子供っぽく変わる様(さま)はとても爽ちゃんらしくて、可愛かった。

小さい頃と変わらない笑顔。

脳に焼き付けられた笑顔は、俺の胸を熱くさせた。

「あー爽ちゃん可愛い…。」

「はいはい。」

俺達が無駄話をしているなか、ちゃくちゃくと話は進んだようで、気づいたら六限目を終えるチャイムが鳴り響いていた。



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