爽ちゃんに思い出して貰えた次の日の朝、俺は懐かしい夢を見た。
「やーい、泣き虫爽ーっ。」
「く、暮くん…痛い、引っ張らないで…。」
小学低学年の頃の自分。
そして、必ず隣に居るおさげ髪の彼女。
ふとした時に笑う、あの笑顔が見たくて、俺は常に爽ちゃんに絡んだ。
元々クラスの輪の中心だった俺が、一人だった爽ちゃんも輪の中に入ってほしくて始めたイタズラがエスカレートし、中学年に上がる頃には、彼女の笑顔は見れなくなってしまっていた。
取り巻き達がボソボソと彼女に悪口を言う。俺が招いたその結果を、何も言えずにただ眺めている事しか出来なかった。
高学年に上がり、爽ちゃんが皆とは違う中学を受験することを知った。元々勉強が出来た彼女は、首席合格間違いなしと先生たちに誉められていた。
クルクル頭の俺は、頭の中もくるくるで。勉強なんて全然出来なかった。でも、彼女に追い付きたくて、同じ中学はいけなくても…彼女が頑張る事を俺も経験してみたくなった。そこから必死で勉強に勤しんだ。もうその頃にはいじめと呼べるものは無くなっていて、彼女の周りが寂しいこと以外…何も変わらずに卒業の日を迎えた。
好きだと打ち明けられないまま、彼女とはそれでさよならーーー
チャラチャラした見た目を、分厚い眼鏡と長くした前髪で隠し。制服も真面目に着こなして、当時の彼女の気持ちが少しでも分かるように、中学では一人でいるようになった。
だけど、天に出会った。
アイツは俺のこの気持ちを分かると理解して、一緒にいてくれた。地味な見た目にして、離れていった奴等とは違って俺の中身を見てくれた。
(俺も、こんな奴だったら…爽ちゃんを泣かせずにすんだのかな。)
隣を歩く天を見ては漏れるため息に肩を落とす。
「何だよ、人の顔見てため息とか感じ悪いぞお前。」
「いや、今日微妙な夢見てさ。懐かしいんだけど、なんかお前見てると悲しくなってくるんだよね。」
「んだそれ、わけわかんねえ。」
「ふは、俺もだわ。」
校門前まで来ると、先生が立っていた。
いくら不真面目な高校でも、抜き打ちの服装検査は必ずあるもので、多分それが行われてるんだと思う。
校則違反は一つもしていない俺と天は、先生からの許可を得て一発で門を潜らせてもらった。
他の奴等は、まあ言わなくても分かると思うけど見事に引っ掛かっていて、先生達に減点されていく。
「校則ゆっるい癖に、抜き打ちの服装検査はくそ厳しいとか、ほんと変な学校だよな。」
我関せずで昇降口まで進めば、クイクイと袖を引かれる。「何だよ天。」と振り向けば、袖を引っ張って居たのは爽ちゃんだった。
「え、さ、爽ちゃん?」
「暮くん、お友達と居るところ悪いんだけど隠してもらえないかな。先生にバレないように玄関まで行きたいんだよね。」
天と俺で爽ちゃんを隠し、そそくさと玄関で靴をはきかえる。ふう、と一息ついた爽ちゃんは、改めて見ると確かに校則違反ばかりだった。
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