この世に もう いないなんて感じない綾己の存在。
玄関が開くと、当時の記憶に包まれる。
綾己の部屋に初めて来た時の気持ちを思い出すだけで涙が込み上げてくる。
それは綾己の母親も同じ。
「 やぁね、しんみりしちゃう… 里桜さん 入って 」
「 はい、そうですね… お邪魔します 」
中に入ると 私の知ってるままの部屋。
何も変わらず 今もいるように感じる。
「 里桜さん、実はね、ここ解約しようと思ってるの… だから形見をと思って 」
解約!? 綾己のこの部屋を!?
「 あの、お母さん… 解約だなんて、そんな… この部屋は綾己そのものです!」
「 私もそう思ってたけどね、いつまでも このままじゃダメだと思って… 綾己はいないから… 」
そんな! お母さんがそんなこと言うなんて…
「 いないなんて言わないでください… 嫌です、私は嫌ですっ! 絶対に嫌…… 」
「 里桜さん… 泣かないで?」
私は涙しながら首を振った。
嫌だと言うのは私のワガママ。
わかってる…
でも綾己の思い出はこの部屋にある。
それが無くなるなんて考えられない。
「 お母さん… お願いです、この部屋を残してください… 」
お願い…
綾己の一部を失くさないで…
どうか、お願い…



