ブラックドレスに甘い毒牙を隠して…


私を抱きしめるのは 綾己でなく、憂臣。

私は憂臣に捕まるわけにはいかない。




「 里桜、俺のこと 好き?」



それだけは私の言葉は決まっている。

憂臣には決して言わない言葉…

そこにタイミングよく玲羅と叶恵が憂臣を見つけ呼んだ。




「 憂臣くん見つけた~ 探したよ~ 」

「 里桜… 」

「 先に戻るね 」



憂臣は私の返事が欲しかったと思う。

でも、私の心は決してあげない。

午後の授業が終わると 私は弥生に先に帰ると言い、すぐに教室を出た。




「 里桜っ!」



憂臣が私を呼び止めるが、振り向かず言った。



「 ごめん、急ぐから!」



彼女であって彼女ではない私。

今向かう先には綾己の部屋と、綾己の母親が私を待っている。

早く行きたくて 気持ちが足を走らせる。

バスに乗って3つ目で降り、歩くこと15分。

アパートが2軒並ぶ中に綾己の住んでいた部屋がある。

私はドキドキと緊張しながら辺りを見ながら歩いた。



綾己と歩いた道、手を繋いで歩いた道…



私は見えるアパートを前に鞄からあるものを取り出した。

目の前に 綾己の母親が私に向かって手を振っている。



綾己のお母さん!



「 すみません、お待たせしました 」

「 いいのよ。久しぶりね、里桜さん 」

「 はい… ご無沙汰してました 」

「 さ、行きましょうか 」



私の背を優しく擦る綾己の母親に 少しホッとした。