ブラックドレスに甘い毒牙を隠して…


あなたの名前を呼びたくない…



「 里桜… 」



憂臣、と名前を呼んだ私に近づき抱きしめようとする。



「 ダメ 」



私は憂臣の胸元にあるネクタイを押さえるようにして止めた。

でも、憂臣は私の手を握り取って 私を自分へと引き寄せた。

たった一歩の距離が数センチに思えるほど力強く引き寄せられた。



綾己っ……




同じような光景を私は覚えている。



あれは綾己と付き合い始めて1ヶ月たった頃。

私は女子生徒に囲まれている綾己を目撃し、ヤキモチを妬いて勝手に怒っていた。

そんな私は 綾己からの呼び出しやメールを無視して会わないように避けていた。

それが、この渡り廊下で鉢合わせしてしまったあげく、私が背を向けようとした時、手を掴まれ綾己の胸に飛び込むように引き寄せられた。




「 里桜、やっと、捕まえた 」



そう言いながら笑う綾己の顔を 拗ねながらも私は真っ赤になりながら見つめていた。



綾己…



でも、今 綾己でなく、憂臣が私を捕まえている。