翌朝、わたしが出社すると拓巳はもう自分の席でパソコンに向かっていた。
隣のデスクにカバンを置くと、彼の背中に緊張が走った、ように見えた。

くるり、彼は顔だけわたしにむけて微笑む。

「おはようございます、奈央さん」
いつもと同じ、あのプレミアムな微笑み。

「膝のケガ、どうですか?」

「うん、平気」

「よかった」
それだけ言うと、拓巳は再び画面に視線を集中させた。

確かに笑顔だ。
笑ってる。
でも……なんだろう、ガラス越しに見ているような。
手を伸ばしても届かないような……。
そんな距離を感じてしまう。

ううん。違う。

きっと、これが普通なんだ。
普通の同僚への態度、接し方。

翠の言ってた意味が、ぼんやりと飲み込めた。

——明らかに態度違うよ。
——好き好き好き〜! って、心の声が駄々漏れてるよ。