工藤さんとわたしは、一言も口をきかなかった。

タクシーに乗り込んでも、わたしの部屋に入っても。

どうしよう……

たぶん、工藤さんに気づかれた。
どっちを選ぶかって拓巳に迫られて……一瞬迷った、わたしの気持ちを。

怖くて、工藤さんの顔を見ることができなくて。


キッチンに逃げるように駆け込んで、「コーヒーでいいですか」ってガタガタ、カップを用意する。
何か、沈黙を埋める口実がほしかった。

「何もいらない。奈央……こっちにおいで」

ソファに座った工藤さんが、隣を指してる。

でもわたしは……動けなかった。
今、工藤さんのこと、真正面から見る勇気がない。

「奈央?」

工藤さんが焦れて、立ち上がる。