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通勤電車並みに混みあったエレベーターから吐き出されて、わたしは27階のフロアに足を踏み入れた。

曙エージェンシーは、業界でも上位に入る広告制作会社だ。
ワンフロアをぶち抜いた見晴らしのいいオフィスには、営業、総務等、各部署がそれぞれ固まってデスクを並べている。

そのほぼ中央、一番広いスペースを占拠しているのが、我が制作部。
編集、デザイン、ウェブの3チームから構成されていて、わたしの所属は編集だ。主に、雑誌の記事と連動した企業広告、いわゆる記事広告の制作を担当してる。

この会社に中途入社してようやく2年、社員同士の仲もよくて、部署間の風通しもよくて、ほんとに転職して正解だったって思ってる。

わたしはマックをにらんでいたデザインチームの高城翠(たかしろ みどり)に「おはよ」って声をかけて、隣のデスクにカバンを置いた。

「おはよー。昨夜遅かったんでしょ、大丈夫?」

「うん平気。昨日はなんとかお風呂まで入れた」

「女子にあるまじき発言だね」

呆れたような翠の言葉に、「まったくね」と苦笑を返す。
仕方ないわよ、マスコミ業界なんてこんなものだ。
好きで選んだ道だから、後悔はしてない。

「ねえ奈央、なんか気づかない?」

パソコンを立ち上げていたわたしの方へ、翠が体を乗り出してきた。

「え? 何が?」

「社内、ざわついてるっしょ」