う……このチャラ男めっ! いつもいつもっ!
一応、これでもわたし、年上なんだけどっ。
なぜだか、いつもこいつの手の上で転がされてるような気がする。うう……。

「いいっ? 今日のスタッフはね、カメラマンもスタイリストも超大御所なんだから! 彼らの前でそんな冗談、絶対やめてよね! くれぐれも失礼のないようにっ!」

「はいはい」
涙をふきながら、拓巳がまだ笑い続けてる。

あぁなんか頭痛い。
ほんとに、厄介だ、こいつ。


◇◇◇◇
フェミール池袋は、住宅街のど真ん中にある撮影スタジオで、見た目はただのオンボロプレハブ倉庫。でも、1歩中に入ると、近代的な白ホリスタジオになってるのよね。

案の定、拓巳は「うわ、すげえ」なんて、さっきからキョロキョロしっぱなしだ。

積みあがった機材や小物をよけながら、今日の撮影がおこなわれる第二スタジオへ入ると、スタイリストの宮本さんが荷物を解いて準備を始めていた。

「宮本さん、ご無沙汰してます」

「お、沢木じゃん。今日はよろしくー」
潔く刈りあげたベリーショートの中性的な美女が振り返った。
宮本さん、相変わらずの凛々しさだなあ。
初対面の時、「昔宝塚で男役やってたんだよね」って自己紹介されて、3か月間わたし、それずっと信じてたんだっけ。

その彼女が、拓巳を見て手を止めた。