白い壁に囲まれた廊下に、わたしは立っていた。
廊下の先には、小ぢんまりとした玄関。
靴箱の上の花瓶には、花びらが縮んだガーベラが2輪、申し訳なさそうに揺れていて。
お気に入りの水玉模様の傘が、傘立てに入っていて。

見覚えのある風景だった。

でも……
天井が妙に高い。

あぁ、そうか。
天井が高いんじゃない。わたしの背が低いんだ。

わたしは自分の手を見た。……子どもの、ふっくらした小さな手。

ようやく、これは夢の中なんだ、昔の夢を見てるんだ、って納得する。

そうだ、思い出した。ここは、昔住んでいたマンションの部屋。
お父さんとお母さんと、わたしと、3人で……。

水音がした。
蛇口から勢いよく噴き出す、水の音が聞こえる。
キッチンとは反対方向。バスルームからだ。

お母さん、お湯出しっぱなしにしてる。もう、しょうがないなあ。

幼いわたしは、歩き出す。

お湯、止めなくちゃ。

——だめ! 行っちゃダメ!