「おおいっ亀井! お前どうしたんだよそれっ!!」

月曜日、休み気分をひきずるように静かだった社内が、その瞬間一気にざわめいた。

額を包帯で巻いた拓巳が出社したから。
隠れて見えないけど、たぶんシャツの下も、ぐるぐる巻きに違いない。

「ちょっと階段で転んじゃって。いや、マジどんくさいですよね。かっこ悪すぎ」
拓巳は朗らかに笑い、少し肩をすくめてみせた。
フロアを横切る軽やかな足取りに乱れはなくて、ちょっとホッとしたけれど。

実はかなり動転していた。

正直、まさかこんなに早く彼が退院すると思わなかったから。
もう少し、冷静になる時間がほしかったんだけど……。

「ちょっとちょっと、どうしたのよ彼氏。あんたなんか知ってる?」

翠の声にも、「さあ」って返すのが精いっぱい。


コツ……
隣のデスクに、拓巳が立つ気配がする。
「おはようございます。奈央さん」

手をきつくマウスに押し付けて、動揺をやりすごす。

「おはよう。ケガの具合は?」
大丈夫。普通に話せてる。この調子。