病院は、嫌いだ。


あの日のことを、思い出してしまうから。


お母さんの青白い顔、手首に巻かれた、白い包帯。
うなだれる、お父さんの横顔。
月明かりを飲み込む、のっぺらぼうの廊下。

刻み込まれた記憶は、こんなにも簡単に、よみがえってしまう。



パタパタパタ……

軽い音が聞こえて、わたしは椅子から立ち上がった。
通りかかったナースを「すみません」と呼び止める。

「あの、たくっ……亀井くんは」

息を詰めて返事を待つわたしに、そのナースはにこっと安心させるように微笑んだ。

「あぁ出血量多くてびっくりされたでしょう。大丈夫ですよ。ケガといっても、主に打撲ですから。臓器の損傷もありませんし。今は眠ってらっしゃいますけど、明日いらっしゃれば会えますよ」

「そう……ですか」
よかった……