「何、そのたとえ」
思わず笑ってしまったわたしをあやすように、拓巳はゆっくりとわたしの体を揺らした。
「いいじゃん、オレ、チーズケーキ好きなんだから」

そして。

「食べちゃったら、確かに終わりかもしれないけど、おいしかった記憶は、残るよね?」

え……

「楽しかった記憶は、きっと奈央さんの中に残るよ。つらいことばかりじゃなくてさ」

楽しかった、記憶。
昔の、思い出。

つらいことばかりじゃ……なかった?
お父さんと、お母さんと、わたしと……
3人で過ごした、あの家……

ふいに。

膜を一枚はったみたいに、視界がぼんやりかすんだ。
こみあげてきたものをぐっとこらえて、わたしは天井を仰ぐ。

やだっ、こぼれる……

「奈央さん?」
体を離してのぞきこもうとする拓巳から、必死で顔をそむけた。