「もう行こう」

「え……どこに?」

「どこって……送ってくよ。高城さんの家」

「でも、もう時間遅いよ?」

「タクシーつかまるって」

歩き出そうとした拓巳のシャツの裾を、わたしは思わずつかんでいた。

「奈央……さん?」

頭に浮かんだのは、がらんて空っぽの部屋。拓巳のいない、部屋だった。
体の内側まで空洞になってしまったかのような、たまらない寂しさ。
あれをもう一度味わうのかと思ったら、なんだかこのシャツを離しちゃいけないような、そんな気がして……。

「ああああの、あのね、今日、翠、彼氏と一緒にいて、帰ってこないの。だから……その……拓巳が泊ってくれない? ここに」

拓巳の目が、「え」っていっぱいに開かれる。
「奈央さ」

「ちちちち違うの! そういう意味じゃなくて! 1人になるのが怖いから! だからその、それだけでっ」

沈黙が降る。

なんか、なんかほら、言って! なんでもいいから!
「拓巳は……わたしが嫌がるようなこと、しないよね?」
上目づかいに、そっと伺う。