「なんでやられっぱなしになってんの? やり返さないの?」
もしかして、拓巳って意外にヘタレだったりするの?

わたしの頭の中の疑問を読み取ったのか、拓巳はおかしそうに笑い、そしてすぐに「ってぇ」って表情をゆがめた。

「もめごと起こすと、オレなんかまだ新人だからね。間違いなくオレの方が辞めさせられる。どっちが悪いとかじゃなくて。ここ、時給いいから。逃したくないんだ」

「こんなことまでして、ホスト、続けなきゃいけないの?」

すると、拓巳はふいって顔をそむけ、吐き捨てるようにつぶやいた。
「言ったでしょ。金がいるんだって」

「……本命の、彼女のため?」

ぼそっとつぶやくと、拓巳がギョッと体を起こして……「イタタ」ってまた顔をしかめる。

「ってぇ……くそっ……あのさ、まさか奈央さん、あいつらの言ってたこと、信じたわけ?」

「違うの?」

「んなわけないだろ。他に本命いたら、奈央さんのこと、こんな必死に口説くわけないって」

そのまっすぐな眼差しに、知らず胸が、きゅんとすくんでしまう。


赤くなった顔を隠すように、わたしは立ちあがった。
「怪我、手当しないと。お店の中戻ろっか」