でも上司命令に逆らえるはずもなく。
仕方なく立ちあがって、「沢木奈央です。よろしくね」って、彼の笑顔には叶わないけど、わたしも精一杯愛想よく微笑んでみた。

彼の双眸が、まっすぐにわたしを射る。
うわあ、目がくらむ、その言葉がぴったりだ。
未体験の美貌オーラをまともに浴びて、わたしは予想外のその威力に動揺してしまった。

バッ……バカバカ、奈央のバカ!
工藤さんの前で、他の男にときめいてどうすんの!

「やばい」

……は?

今、なんか彼、言った?

「え?」って聞き返すと、
亀井くん、突然へろへろってその場にしゃがみこんでしまった。

「え、ええっ!? ちょ、ちょっと大丈夫!?」

慌てて駆け寄って覗き込む。
初日で緊張して、気分悪くなっちゃった、とか? 

「会議室で少し休む?」

連れて行こう、と立ち上がりかけたわたしの腕を、するりと伸びた彼の手がつかんだ。
「え……?」