う……うん。そう、なるのかなって思ったんだけど。

「オレに、気持ちが弱ってる奈央さんにつけこむような真似、させたい?」

あ……て、思考の霧が晴れる。
そっか。
昨夜はわたし……普通じゃなかった。
だから……。

「オレね、奈央さんのこと本気って、言ったでしょ」

「……うん?」

拓巳が、わたしの顔を息がかかるほど近くから覗き込む。
漆黒の空間の中、確かめるみたいに、彼の大きな瞳が揺らぐことなくわたしを見つめてるのがわかる。

「それはさ、奈央さんが全部ほしいってこと。体だけなんて何の意味もない。オレがほしいのは、奈央さんの心も体も、すべてだから」

そして、わたしの前髪をそっとかきあげる。
その指があんまり優しいから……胸の中、どうしようもなく、ざわめいてしまう。

温められたバターみたいに、体の細胞が、甘くとけていくみたい。
なんでこんなセリフ、言えるのよ。もう。

「奈央さん……」

かすれた声が、密やかに耳元の空気を揺らす。

「オレの理性ぶっちぎれる前に、早くオレのこと好きって認めてよ」