あと少しで触れそうになった唇に、指を当ててみる。
なんで……何もしなかったのかな。

たぶん、あのままキスされていても、それ以上のことをされていても、わたしは受け入れていたと思う。

なんで、しなかったんだろう?

べべ別に、してほしかったわけじゃないけどっ!
でも……

なんか、わたし変だ。
なんでこんなに拓巳のことばっかり……?

頭を振って、もやもやした気持ちを無理やり払い、わたしは支度を始めた。


◇◇◇◇
「……ってわけでね、しばらく翠のアパートに居候させてもらえないかなって思って」

昨夜拓巳と話し合って、しばらくアパートには帰らない方がいいってことになっていたから、朝、出勤するなりわたしは翠と田所を屋上へ誘い、今までのことを打ち明けた。

話が終わるなり、「バカ!」って翠に怒鳴られる。

「あんたはねえ、なんで早く言わないのよ!」
「そうだぞ。何かあってからじゃ遅いんだぞ?」