パンドラと恋慕









「完全 好きの裏返しでしょ。青春だねぇ」


「それは、無いと思う」


 昼休み、俺の隣の席に座り、弁当をペロリと平らげた円谷 健(ツブラヤ タケル)がにやける。

 円谷はクラスの中で、俺と対等に接してくれる唯一の友人だ。


 他のクラスメイトたちは俺の家柄を意識して、恭しく、他人行儀に話し掛けてくる。

 こうして、わざわざ俺の席まで来て、昼休みは食堂に行く隣の女子の席に腰掛け、一緒に昼食をとるのも円谷だけだ。


 なので、円谷は稀有な存在である。




「確かに明石さんは、掴めない所もあるけどさ、ふつう気のない男と毎日会う? 一度助けてもらったくらいで」


「確かにそうだけど、アイツ結構冷たいし、もしかしたら俺のこと嫌ってるのに会ってるとか」


「ちょ 待て、それ完璧恋する乙女の言うことね?」


 乙女と言われ、気分を害したので、俺は円谷を無視して弁当箱をてきぱきと片付ける。

 そして、窓際の席特有の日差しが気になったのでカーテンを閉めた。 天気予報では雨が降ると言っていたが、カラカラと晴れていた。



 俺は円谷に、ひな乃について、時折、相談ではないが、愚痴みたいに語ることがある。 というのも、円谷が俺とひな乃の関係が気になるらしく逐一尋ねてくるからだ。

 今日は、先日のひな乃の冷たい、一蹴するような態度について軽く話した。



「おべんと 残すの?そんな豪華なのに」


 蓋の閉まった二段弁当を円谷が指さす。


「あんまり体調が優れないから」


「最近調子悪いのか?」


 円谷は少し眉をひそめた。確かに、ここのところ、何かにつけて体調不良だと円谷に言っている気がする。

 決して仮病でなく、倦怠感というか、なんともいえない感覚が時折襲い、食欲不振になる。


「まぁ、その内治るだろ」


 元々貧弱なわけではないので、早めに眠るようにすれば落ち着くだろう。


「ふうん」


 円谷はなにか、疑うような眼差しを俺に向けていたが、気付かないフリをした。





「あの、駿河くん」


 円谷と本のことや授業のことなど談笑していると、俺を呼ぶ声がしたので振り向いた。

 茶色がかった髪を一本にまとめた女子、八幡がいた。


「相模さんが呼んでるから、廊下にお願いします」


 八幡は敬語で俺に喋る。他人行儀で少し寂しいが、他のクラスメイトとなんら変わらない。


 それより、今、相模って___。


 慌ててドアの方に目をやると、相模の姿は見えない。


「分かった。

そういうことだから、円谷行ってくる」


八幡は用件だけ伝えると軽く会釈して友だちのところへ行った。つくづく、見えない壁を感じる。



「頑張れよ」


 果たして何に対しての頑張れなのだろうか。