その後、俺はひな乃に連れられて電車に乗った。
俺は、バス通学だが、ひな乃の行き先は、どうやら、学園を挟んむと、俺の家とは逆方向のようだ。浅井さんの家とも。
車内で、ガタンゴトンと小刻みに揺られるひな乃の横顔。
清條院の最寄り駅から数駅離れた、ベッドタウンとして有名な駅で降りる。
__この駅は、昔、何度か訪れたことがあった。といっても、家の車でなので、駅自体の利用はほとんどないが。
沈黙を続けながら、颯爽と歩くひな乃の後を追う。
ひな乃は、迷うことなく駅前のバスターミナルやちょっとした商業施設を抜け、閑静な住宅街へと向かう。
慣れているのだろうか、もしかして、ひな乃の家はこの駅が最寄りなのかもしれない。
俺は思わず緊張した。そんな偶然__そもそもどこに向かっているのかも分からないのだが__はあるのだろうか?
上れば上るほど、金持ちなセレブの住む坂道になっている住宅街をどんどん上っていく。
静けさは、下層部とまた違った、威厳があり、それでいて優雅で。高級感が漂っていた。
そして住宅が軒を連ねる光景は見覚えがあった。確か、数年前、家族で呼ばれてこの坂の並びで一番大きな邸宅に__。
「ここです」
「え?」
ひな乃は、自分の身長よりも高い、壮麗な門扉の前で足を止めた。
俺は、七宝焼きの表札と、ひな乃の顔を数回、見比べてしまう。なぜなら__。
「なんで、氏家さんの」
そう、ひな乃が“ここ”と示唆したのは、かつて俺も訪問したことのある、氏家宅だったからだ。
氏家の屋敷は由緒のある、昔からこの坂の上にある邸宅だ。その敷地の広さは思わず息を呑むほどだ。
部屋数は数え切れないほどだし、ワインの貯蔵室は家主、つまり裕貴さんの父のお気に入りだとか。また、別館と呼ばれる蔵には、鑑定士が訪れたら舌を巻くような骨董品の数々が眠っている。
家の生い立ちからして、別格なのである。
そんな豪邸に、何故訪れた?
「先輩。少し、待っていてください」
ひな乃はインターホンを鳴らし、小声でなにやら伝えたようで、たちまち門扉は重々しい、唸るような重々しい音を上げ左右に開き始めていた。
手馴れた様子に茫然とするしかない。
ひな乃の後に続き、敷地内に足を踏み入れる。
邸宅の扉まで一直線に続く石の道を辿りながら、前と少し変わったような気のする、左右に構える庭をジロジロと観察してしまう。
テーマパークのように、草花で彩られていた記憶が過ったが、今は冬なので落ち着いた雰囲気がある。
キャベツのように皺っぽい葉牡丹に、渋い色のビオラ。
季節感が感じられる、赤い葉のような花弁のポインセチア。
手入れは行き届いており、それぞれ凛とした草花は、趣のある光景だった。