だから、なんとかしてひな乃に聞き出して欲しい。と、浅井さんは、どこか悔しそうに告げた。

 ひな乃の話をこんなにするくらいだから、浅井さんの中でひな乃の存在は大きなものなのだろう。だから、わざわざ俺なんかにひな乃のことを頼むのは、わだかまりのあることなのかもしれない。

 でも。


「でも、なんで俺なんかに?」


「え、えっ?駿河先輩にしかできないことだからですよー!だって、仲良いし…。
と、とにかくお願いしますっ」


「分かった」


 仲が良い、と浅井さんには認識されてるみたいだが、実際、ひな乃は俺と仲良いとは思ってないと、俺は感じている。ひしひしと。

 一方的に会いに行ってるようなもんだし、ひな乃の地雷を踏んで不機嫌にさせるのはしょっちゅう。出会った時と比べて多少は変わったが…。


 そんな風に考えていて、女々しい自分に気付き、考えるのをやめた。




 駅に着き、電車へ乗り込むと、浅井さんは元気そうに__もちろん車内なのでトーンは下げるが__話してくれた。

 中3の時、浅井さんがこの辺に引っ越してきて、その転校先の中学校でひな乃と出会ったこと。当時も冷たくて中々話してくれなかったこと。

けど、浅井さんが転校生だからという理由で、友達との輪に上手く入れなかった時、さりげなくサポートしてくれたこと。


 浅井さんは頬に柔らかい笑みを浮かべる。


「ひな乃っち、周りのこと見てないようで、見てるんです。ちゃんと。
その時ヘタってたから余計にズッキューンって来ちゃて」


「そこから仲良くなって、高校も一緒にしたの?」


「いや、えっとその…ほぼ、私のストーカーです。高校まで追っ掛けちゃったんで、えへへ」


 身体を縮めて苦笑する浅井さん。よほど、ひな乃のことが好きなんだなと思う。


 浅井さんは韓流ドラマが好きらしく、今度はそちらについて語り出した。


「あ、そういえば私の好きな俳優さんが、駿河先輩に似てるんですよ!こう、スッキリしてる感じ?」


 俺、普通に日本人顔なんだけどなあ。韓国要素はない気がするが。


 俳優の名前を聞いても知らなかったので、話についていけない。が、浅井さんはおおらかな雰囲気があるので、つい聞き入ってしまうから、楽しい。

 浅井さんはメモ帳にハングル文字で俳優の名を書き出したが、当然俺に読めるはずもない。キラキラとした目で、ハングル文字を掲げる浅井さんがおかしくて、俺は笑ってしまった。


 すると浅井さんら、


「それがひな乃っちを懐柔した笑み…?」


 と理解出来ないことをボソリと呟いた。