これは…待った方が良いのだろうか?
保健室からここまでの短い間は一緒に来たが、別に一緒に帰るとも言っていないし。かといって、そそくさと帰るのも感じが悪い。
「先輩っ」
考えていたら、浅井さんはすぐにやって来た。チェックのマフラーを巻いていて、暖かそうだ。
彼女は緊張した面持ちで、俺を見上げる。
「あの、もし良かったら一緒に帰りませんか?」
浅井さんは、たまたま誘っただけかもしれない。
__『好きだから__じゃないですか』。
それなのに、ふと、ひな乃の言葉が気掛かりに思えた。心が謎にうずうずとした。けど、それは確実的なことじゃないし、そうじゃなければ浅井さんにとって不名誉だ。
だから、俺は雑念を振り払うように頷いた。
「うん、いいよ」
浅井さんの家は、最寄り駅から数十分のところで降りた駅らしい。
俺はバス通学だから、バスで帰るとするとすぐに別れることになるのだが、電車でも帰れるので、浅井さんに着いて行くことにした。
と、いうのも、浅井さんが何か言いたそうな顔をしていたからだ。気のせいかもしれないが、少し挙動不審に見える。こちらを見たり慌てて視線を逸したり、と。
住宅街を、ふたり並んで歩く。浅井さんが切り出した。
「あの、実はひな乃っちのことで心配なことがあるんです」
「ひな乃のこと?」
「はい。ひな乃っち、ここ1、2ヶ月くらい、体調が悪そうなんです」
それは確かに、と思った。
あの蔵書室で、俺の肩に寄り掛かってきたこと。浅井さんの言う“体調が悪い”はそれなのではないか。
寄り添う、といえばこの前は__俺の隣に座って、“少年の話”って。あれは体調の問題ではなさそうだが、ひな乃が辛そうだったので気掛かりだ。
「もし、万一、その…何か変な病気だったらどうしようって思って、ひな乃っちに言ってみたんですけど、『病院に行くほどのもとじゃない』ってばっさり。
でも、血色悪くて顔色も、青ざめている時もあって。毎日、ってわけじゃなさそうなんですけど」
「それって、結構ヤバくない?」
浅井さんは深く頷いた。カイロを握る手はせわしく動いている。
「だから、駿河先輩にお願いしたいんです。先輩にしか、できないから…」
「何?」
「やっぱり、本人がなんともないとか言っても、不安で。ひな乃っちの性格からしても。
それに、もし何かあったとしたら、そばにいたのに何もできなかった、なんてことにはなりたくないんで」



