パンドラと恋慕






「あら、浅井さんありがと~」



 白衣を羽織った女性が入ってくる。あまり、会う機会がないので一瞬誰か分からなかったが、保健室の先生の、笹木先生だ。彼女は焦げ茶の髪を無造作に一本にまとめている。

 丸椅子に座る俺を見て、目を丸くさせた。



「あれあれ?そこの君は?」


「2年の駿河です」


「駿河くん?君が駿河くんなの~。浅井さん?」


 笹木先生は、何故か浅井さんの方を見て怪しげな笑みを浮かべた。浅井さんは慌てて目を逸らす。


「駿河くんは、どうしたの?」


「2年の相模さんが、さっき倒れてしまって」


「あ~、相模さんねぇ」



 笹木先生がカーテンを開け、ベッドで寝息を立てる相模を眺めた。どうやら、相模を知っている模様だ。


「この子、この前も体育の時間に運ばれてきたのよね」


 相模がジャージを着て運動してるところを想像すると、全然似合わなくて何だかおかしかった。



「駿河くんは、相模さんと付き合ってるの?」


 笹木先生はニヤリと意地悪そうに笑った。


「いやいや、まさか」


「__付き合ってないです」


「うん、って、相模さん!?起きたの」


 ついさっきまで目を瞑っていたはずの相模は、いつの間にかこちらを見ていた。切れ長の瞳が、横たわっていたせいで乱れた髪の隙間から覗いている。


「駿河くん、ありがとうございました。それと、ご迷惑を掛けてごめんなさい」


 相模は、むくりと上体を起こした。


「先生、ベッド、ありがとうございました」


「うん。
ねえ、相模さん。少し時間あるかな?お話があるんだけど」


 先生は、癖なのだろうか、唇を尖らせて言う。


「はい。大丈夫です」


「ってことで、君たちは退散!帰った帰ったー!」


 威勢の良い笹木先生に、俺は鞄を持たされ、浅井さんと共に保健室から退出させられる。


「先生、いつもあんな元気なんですよね」


「初めてまともに話したけど…。やたら明るいみたいだね」


 浅井さんは、保健室の前に置いてあった鞄を持ち俺と、流れ的に昇降口まで一緒に歩く。


「私、保健委員だからよく話すんですけど、笹木先生、放課後行くとお菓子出してくれたりしますよ。たまにですけど」


 屈託のない笑顔。


「でも、しっかりしてるんですよ!実は、心理カウンセリングの資格持っていて、とっても聞き上手で」


「へぇ」


「私もよく相談するんですけど__あっ!何でもないです忘れてください!」


「あ、あぁうん」


 突如顔を赤くした浅井さんに、首を傾げながら下駄箱付近で別れる。俺は、2年の靴箱で靴を履き替え、昇降口の辺りで立ち止まった。