その言葉に、頬がカッと照った。
「幸せそうって、何それ」
「そのままです」
相模は瞳を細め、何だか苦しそうに赤い唇から言葉を漏らす。
「__残り香…」
頬を赤らめ照れたように、意味不明なことを言った。そして、相模は、ぽうっと酔っ払ったみたいにグラリと身体が揺れ、小さく音を立て床に倒れ込んだ。
「さ、相模さん!?」
慌てて相模の身体を揺らすが、反応を見せない。目は閉じていて、小さく開かれた唇からは、微かに吐息が聞こえる。
気絶、したみたいだ。これはマズイ。どうしよう。
俺は、慌てて相模を抱きかかえ__保健室へ向かったのだった。
「すみません」
一階の保健室に入ると、鍵は開いていたものの教員の姿は見当たらない。なので、俺は白いベッドの上に、相模の軽い身体を置いた。
相模を抱えて四階の図書室から階段で降りてきたのにも関わらず、俺は、全然疲れていなかった。相模は、ほんとうに、軽くて驚くほど華奢な身体付きをしていたからだ。
幸い、放課後だったため生徒に見られることもなく保健室までやって来れたのだが、先生はいないので俺が相模を見ておくべきなのだろう。
小さく上下する相模の胸元にホッと安堵し、ベッドの脇にある丸椅子に腰を下ろした。
__やはり、相模の身体はまずいのではないか。気絶したのは、恐らく栄養が足りていないんだ。
10分ほど黙って待っていると、突如、保健室の扉の開く音がした。そちらを見ると、女子生徒が入ってくる。
「あれ?駿河先輩?」
胸元にバインダーを抱えた、ショートヘアの女子。リボンの絵柄が彫られたバレッタで前髪をまとめている、浅井さんだった。
「あ、浅井さん」
「どうしたんですか?…ベッド、誰か寝てます?」
浅井さんは、カーテンを半分閉め、ベッドの傍に座る俺を見て、ヒソヒソ声で言った。俺は、コクリと頷く。
「大丈夫…ですか?今、保健の先生職員会議でいないんですよ」
あ、私保健委員で所用で来たんですけど。浅井さんは、抱えたバインダーを机に置いた。
「多分、大丈夫だと思うけど、先生来るまで傍にいた方がいいかなって」
「ちなみに、誰ですか?今、保健室の利用名簿を切らしてて、それをコピーして持って来たので書いちゃいます。あと理由も教えていただけますか?」
「あぁ、俺と同じ学年の…相模千里。2年のC組。えっと、さっき貧血かなんかで気絶して」
「んしょと…。ありがとうございます、書きました。相模先輩大丈夫ですかね?」
「うん、多分落ち着いてるけど」
浅井さんはニッコリと微笑むと、保健の先生のデスクを整理し始めた。先生は慌てて出て行ったのか、やたらと書類が散らばってしまっている。



