後輩なのに、やけに頭の良さそうな喋り方が傲慢というか偉そうというか。
口を挟むのは得策ではない。
言いくるめられる可能性があるからだ。
お喋りに関しては彼女の方が二倍も三倍も上手だろう。
それに俺は家で、“男は無言で制する” ことを躾けられてきた。故に、寡黙でいることが習慣づいている。
俺は話に耳を傾けながらティカップに口をつけた。
__まろやかな味が口の中に広がる。
鼻呼吸すると、爽やかな薫りがして、味も薫りも楽しめる銘茶だ。
俺は父親の紅茶好きで、小さいからよく飲む機会があったので割と紅茶に対して詳しいと思っていた。
しかし、ひな乃の淹れてくれる紅茶は今まで飲んだことのないような、珍しい風味だった。
なんていう品種か尋ねたところ、庶民の価格で安物だと言われたのだが、俺には一番コレが合っていると思う。
「神話や、タロットカード…あぁ、最近では漫画や小説にもよく出てきますよね」
愛らしい声が小さな教室に満ちる。
うつむき加減のひな乃。
長く生い茂るまつ毛が瞬きするたびに揺れる。
「でも死神は、もっとずっと狡猾ですから、あんな風に視覚的にいかにも『死神ですよ』なんて思われるような身なりをしていません。自ら名乗ることもありません」
もちろん、それは“死神”を肯定的に認めた上でですが、と続け、彼女も一口目、ティカップに口をつける。
その際、ひな乃の口元に視線が自然と向かう。
薄紅色の、柔らかそうな唇は、カップに触れてセクシーな印象を俺に植え付けた。
「あ……」
そして、その唇は小さく開かれ、僅かに嬌声を発した。
俺の視線に気付いたからか?と、表情を伺うと恍惚としていて、俺ではなくティカップの中身を見ていた。
トロンと垂れた瞳は紅茶を飲んだことが嬉しくて堪らない、そんな風に感じられる。
そうやって、いつも砂糖菓子みたいに甘く笑っていればいいのに。
「先輩、お味いかがです?」
またたく間に表情が元通り、全てを悟った仏様のように朗らかにも見えるが、どこか冷たさも感じる。
そういうことって、俺が紅茶を飲んだすぐ後に聞くものじゃないのか?
「いつも通り、ファンタスティックな味で」
「では、ミルクやお砂糖はいりますか?」
「それならもっと早く聞くべきだし__いつも通り要らないよ」
この後輩は、俺をからかっているのだろうか。
毎度毎度のやり取りなので、もう気には留めないが。