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「その女は、死神です」



 書物が汗牛充棟のごとく詰まる本棚が、その部屋の大部分を占める。

 部屋の中央には、電灯の灯りに艶々と煌めく漆塗りのテーブルが本棚に囲まれるようにして置かれていた。


 テーブルの向かいの両側には、いかにも高級な革製のソファがあり、座り心地は良いが、良すぎて寧ろ落ち着かない。


 しかし俺は、ドカリとソファに深く腰掛け、制服を纏う女子の後ろ姿を見据える。



 女子の立つカウンター風の、横に長いテーブルは俺が初めてこの部屋に入った時から存在した。

 ___俺の座るソファと、漆塗りのテーブルはその時、まだ無かった。



 一隅にあるコンセントにポットのプラグを挿し、ポットをテーブルの上に置いている。

 また、几帳面なためか、汚れのない純白のタオルには、ふたつのティカップとティポットが逆さにされている。


 頭上にある戸棚には、紅茶のティパックの在庫が整頓されているはずだ。


 こんな風に蔵書などの物置と化した、空き教室を勝手に、台所のように改造したのは紛れもなくそこに立つ女子生徒である。



「死神と言っても一刀両断に«死をいざなう»とは言い切れません」



 こちらに背を向け、タオルの上のティカップをひっくり返し、ポットの湯を注ぎ、せかせかと紅茶を淹れていながらも、理路整然と語っている。



「そもそも先輩はご存知です?」



 そこで、ようやくふたつのカップをお盆に載せてクルリと身体の向きを変えた。

しなやかな足取りで盆をテーブルに置くと、向かいにある、俺の座るものと全く同じソファに腰を下ろす。

気品漂う華麗な身のこなしは、いいところのお嬢さんに見える。




 私立 清條院(ショウジョウイン)学園に通う、
高校1年生の明石 ひな乃(アカシ ヒナノ)。


 怜悧な程に整った顔立ちの彼女は、生徒、特に男子からの注目を集め、傾国の美女ならぬ傾園(ケイエン)の美女などと呼ばれている。



 長くて艷やかな黒髪はふたつにまとめられていて、高い位置に結われているものだから、幼稚園児のようなヘアスタイルだ。


 愛らしい顔立ちに、アイドルのようなツインテール。

 俺も初めてひな乃を見た時、彼女の周りに華やかな薔薇が咲いているかのような錯覚がし、衝撃的だったのを覚えている。


 まるで、現代に生ける、お姫様。



「“死”を司る神なんて言って崇めていますが。
先輩が思う死神は比喩です、擬人化です」