君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜




流人が、本田の家の敷地に猛スピードで車を入れると、敷地に入った途端、暗闇の中にマルの姿が見えた。


「マル」


やはりマルの犬小屋はすでに飛ばされていた。
チェーンで繋がれていたマルは逃げる事もできず、雨風の中、その場にずっと座っている。


「マル、お前よく頑張ったな…
今から、おじいちゃんの所に連れて行ってやるからな…」


流人は、胸が詰まって涙がこぼれた。
健気におじいちゃんの迎えを待つマルの姿は、一途な忠誠心と深い愛情に溢れていた。


「マル、急ぐぞ」


流人は、車に載せている本田から預かったマル用のゲージにマルを乗せた。
でも、車に乗り込もうとした時に恐ろしい程身近に波の音が聞こえ、流人は防波堤のすぐそこまで海が迫っていると実感した。
マルの体をタオルで拭きながら、流人は一つの事柄が頭から離れないでいた。
さっきここに向かう途中、山側に建つ民家にほんのり灯りが見えたからだ。
まだ避難をしていない人がいる、それも山と海に挟まれた危険な場所に建つ家の中に。

流人は物凄い勢いで本田の家から車を出し、そして、その灯りの見える民家へ車を走らせた。

今が何時なのか?台風がどこに進んでいるのか?そういう事は今は関係なかった。
とにかくこの場所から人を救い出す、それが先決だ。