きゆは待合室の長椅子に座って、ずっと流人を待っていた。
夜の9時が過ぎた頃突然電気が消え、島内放送で停電をしたと呼びかけていた。
きゆは待合室にある非常灯の下で、携帯を握りしめ流人からの連絡をひたすら待った。
きゆの方から何度も電話をかけているが、電波が届かないというアナウンスしか応答はない。
きゆは不安で心配で怖くてずっと震えていた。
流人が出発してからもう4時間は経っているのに帰って来る気配もない。
きゆはパニックになりそうな自分を必死になだめていた。
もし、何かあったら、流人のご両親になんて言えばいいのだろう…
ううん、違う、そんな事はもうどうでもいいよ…
流ちゃんがいなくなったら、私は生きていけない…
流ちゃんがそばにいないと、私は私じゃなくなる…
“俺はきゆが好きで、きゆは俺が好き。
単純ってそんなにダメなことなのか?”
そうだよね…
この単純な本当の気持ちは、たくさんの建前やたくさんの言い訳の詰まった箱の中に閉じ込めても、いつか必ずその箱から飛び出してくる。
私は流ちゃんを愛してる…
私も流ちゃんと結婚したい…
流ちゃんと死ぬまで寄り添って生きたいよ…
きゆは暗闇に浮かぶ緑色の灯りの下で、自分の心の奥底に沈めていた流人への思いを解放した。
流ちゃん…
流ちゃんに素直に伝えたい…
だから、早く、帰ってきて…



