きゆは一人待合室の椅子に座り、流人の事をぼんやり考えていた。
流人を忘れるためにこの島に戻ってきたのに、流人への想いは募るばかり…
幼い時から慣れ親しんだこの風も空気も風景も、傷ついたきゆの心を癒すことはできなかった。
「こんちわ~~」
きゆは突然の来客に驚いて、我に返った。
「は~~い」
玄関の方へ目をやると、そこには瑛太が立っていた。
瑛太はきゆの幼なじみで、唯一、島に残る若者だ。
幼なじみといってもこの島の子どもは皆兄弟のように育つため、きゆにとって瑛太は身内に近い存在だった。
「きゆ~、元気か~~?」
きゆがこの島に戻ってきてこの病院に勤めて2か月が経ったが、瑛太は週の3回はこのように来院して、きゆの様子を見に来てくれる。
「元気だよ~ 今日はどうしたの?」
瑛太は村の消防団に勤務していた。
消防団といっても、ほとんどの団員は村の青年団で皆それぞれの仕事を持っている。
しかし、瑛太は、隣の島にある本部の消防署から出向という形で、この島の消防団に身を置いていた。



