流人にとって、その桜の木は想像以上のものだった。
とにかくデカい…
満開の桜の花達は、海から吹いてくるそよ風に優しく揺れている。


「今日は、平日のせいか、誰もいなくてビックリしちゃった。
いつもは混雑はしないけど、誰かしら桜を見にきてるのに。

最初はただの山桜だったんだけど、あまりにきれいで人が集まるから、いつの間にか手作りのベンチができたり、小さな広場を作ったり、今ではこんなに素敵な空間になったんだ」


きゆは本当にこの場所が好きだった。
今、こうやって、流人と一緒にこの大好きな桜を見ていることが夢のようだ。


「お弁当、作ってきたの、食べよう」


きゆはレジャーシートを桜の木の下に敷き、そこにお弁当を広げた。


「俺、東京にいる時は、春になって桜が咲くのは当たり前の事だと思ってた。
きれいとか、癒されるとか、はっきり言って思った事なんて一度もないんだ…

でも、ここの桜は最高に綺麗だし、いいな~って凄く思う。

こういう世界の中で育ったきゆを、俺が好きになる理由も分かったよ。

きっと、きゆは、俺の持ってないもの見たことがないものをたくさん知ってるんだ」


流人はレジャーシートの上に寝転んだ。


「きゆがこの島を出たくないんなら、俺も、ここにずっと住んでもいいんだけどな……」