静かな時間が流れていた。
きゆは9時になると、しばらく玄関のドアを開放した。
天気がよく暖かい空気を乗せたすがすがしい風が、気持ちいいほどに病院の中に入ってくる。
きゆは受付に座り、事務の仕事を何度もおさらいした。
流人は診察室の机の椅子に座り、患者のカルテにずっと目を通している。
すると、駐車場に車が止まる音がした。
きゆは受付から出て玄関先で患者を待っていると、4歳くらいの女の子と付き添いの祖母のような女性が、恐る恐る病院へ入ってきた。
「おはようございます」
きゆはまず年配の女性へ挨拶をし、その後、しゃがみ込んで女の子に「おはよう」と言った。
きゆが待合室の椅子に座っている二人の元に問診票を持って行くと、女の子が恥ずかしそうにこう教えてくれた。
「私、お薬もらいに来たの。新しい先生はいるの?」
おかっぱ頭の色白の目がクリクリした女の子は、背伸びをして診察室を見ている。
「森本ここ奈ちゃん??」
診察室から出てきた流人にそう呼ばれた女の子は、顔を真っ赤にして大きく頷いた。
「じゃ、こちらへどうぞ~~~」
流人が笑えば高校生のような幼さがにじみ出る。
長身でスリムな体に白衣をまとった流人は、都会からやってきた白馬に乗った王子様だ。
子どもから大人までの女性が、どうにもこうにも抗えない惹きつけられる不思議な魅力を、流人は持っていた。



