きゆはそう言われると思い、もうすでに診察室の机の上に重ねて置いていた。


「え? これだけ?」


流人は何十枚しかないカルテの束を見て、きゆにそう聞いた。


「そう…
最近、よく来ている人の分しか抜いてないけど、そんなものだと思う。
ほとんどがお年寄りの人達だから、流人先生、退屈かもしれないよ」


流人は全く関係ないみたいな顔をしている。


「きゆ、俺はさ、最先端の施設の中で一所懸命働いてる医者はよく知ってるし、知り会いもたくさんいる。
でも、こういう風にへき地医療に従事している医者はほとんど知らない。
それだけ、貴重で尊敬に値する仕事だと思ってる。

中々、経験できないよ。

だって、俺がこの島にいるだけで、皆が安心して穏やかに暮らせるんだったら、そんな素晴らしいことはないだろ?
東京にいたら、医者なんてそれに病院だって腐るほどあるんだから」


きゆは流人のこういう純粋で素直なところが好きだった。
恵まれて育った二代目の医者とは思えない、謙虚で控え目な性格にいつも癒された。


……流人は私だけのためにこの島に来たわけではない。この島の人達を救うために、きっとここに来てくれた。