きゆが何も言わずに黙っていると、流人は小さくため息をついて軽く口角を上げ笑ってみせた。
「そんな顔をするから、あのマッチョが、寂しそうな表情が気になってなんて言うんだぞ」
きゆはそんな風に威張って話す流人のほっぺをつねった。
「だったら、流ちゃんもあんな不機嫌な顔をしないでよ。
せっかくの大きな目が糸みたいに細くなるの分かってる?
それより、早く車から降りなきゃ風邪ひくよ」
流人は中々動こうとはせずに、頭の下で手を組んでまた天井を仰いだ。
「流ちゃん…」
流人はもう一度きゆの方へ顔を向け、切なそうな目できゆを見る。
きゆは分かっていた。流人の俺様気質は寂しがりの裏返しだと。
「きゆ、俺にキスして…」
きゆは流人のその言葉で胸が張り裂けそうに苦しくなった。
流人を忘れるためにたくさんの涙を流したけれど、きゆの心はいつもあの流人の優しいキスを求めていたから。
「だって、私達、つき合ってないのに、キスなんてダメだよ」
「バラの花のお返しは?
俺がどんなに苦労してあの花達をここに連れてきたと思ってんだよ…」
俺様流人は、たまに子供のような言い訳をする。



