きゆは診察室のベッドに座り目を閉じ深呼吸をしながら、パニックになっている自分の心と頭をどうにか落ち着かせた。
久しぶり見た流人はいつもの何も変わらない流人で、きゆの大好きな俺様台詞も健在だ。
でも、どんなに俺だけのきゆと抱きしめられても、流人特有の人懐っこい笑顔できゆの髪をいじってきても、きゆは流人に心は開かない。
その決心は何があっても揺らぐことはないと、傷ついたきゆの心はそう確信していた。


「お邪魔しま~す」


玄関の方で流人の声がする。
きゆは自分の個人的な想いは胸にしまって、医者と看護師という仕事上の付き合いに徹することに決めた。


「小さな病院でしょ?」


廊下の先の診察室から出てきたきゆがそう言った。
流人は靴をスリッパに履き替え、待合室をぐるりと眺める。


「いいじゃん、なんか昭和な感じで、俺、こういうの好き」


流人の細身の体にフィットした紺色のスーツにえんじ色のネクタイは、都会の空気を漂わせている。
東京生まれで東京育ちの品のいい坊ちゃんは、どこへ来てもどこに住んでも、育ちの良さがにじみ出た。