翌日

私は、ビデオカメラをまわしていた。

「姫(ひいな)、お母さんね、実は、『癌』っていう病気なの。

先生にも、余命半年って言われてるの。

でも、お母さん全然辛くないの。

姫(ひいな)がいつも笑顔で『ママ』って呼んでくれるから。

姫(ひいな)の笑顔を見ると、辛さなんて吹っ飛んじゃうの。

そして、『頑張らなきゃっ!』って、前向きになれるの。

姫(ひいな)の笑顔に、いつも救われてるの私。

本当は、お母さんが笑顔で優しく姫(ひいな)を包んであげなきゃいけないのに、、。

ごめんね、親らしいこと何一つしてあげられなくて。
一緒に生きてあげられなくて、、、ごめんね」

私は、カメラの前で涙を流した。

この涙は、後悔の涙。

姫(ひいな)がいるのに、病気になってしまった後悔の涙。

「生きたい、、、生きたいよ。

このまま死ぬなんて、、悔しい。

姫(ひいな)を残して、死にたくないよ。

うっ、、うっ」

私は、嗚咽をあげながら、泣いた。

色々な感情が交じりあい、もう泣くしかなかった。

苦しくて、悲しくて、悔しくて、でも言葉にできなくて、涙にかわる。

「姫(ひいな)、、、忘れないで。

お母さんは、これからもずっと、貴女を愛してる。

これから先、貴女が変わってしまったとしても、私は貴女を愛してる」

そう言って私は、カメラを止めた。




一週間後、、、

「伊坂さん、検査の時間ですよ」

「はーい」

そう言って、病室に入ってきたのは、看護師だった。

「お母様は、先生からお話がありますので、診察室にお願いします」

「分かりました」

この時、誰も予想すらしていなかった。

新たに余命宣告されるなんて、、、。


私が検査を受けている間、母は医者から今の私の状態について、説明を受けていた。

「りおさんの体調は、あまりいいと言えません」

「悪化してるということですか?」

「はい。抗がん剤治療もあまり意味をなしてないようです」
 
「そんな、、、」

「このままいけば、半年もつかどうか、、、」

「えっ!?」

「おそらく、今回の検査の結果もあまりいいとは、言えないと思います」

「先生、りおの余命を延ばす方法はないんでしょうか?」

「難しいと思います。りおさんの場合、症状が進行していますので、、」

医者の言葉を聞いた母は言葉を失った。

「りおさんに、お伝えしますか?」

「いえ、私から伝えます」

「分かりました」

検査がおもうより早く終わり、私は先に、病室に戻っていた。

『ガラガラ』

「、、、お母さん、遅かったね」

「えっ、、、あっうん。先生と話してたら長くなちゃて、、」

「、、、それって、私のこと?」

『先生と話す内容といったら私のことしかないだろう』と思い、母に尋ねてみた。

すると母は、急に黙りこんだ。

「先生、何て言ってた?」

「、、、あまり、、、良くないって。
半年もつか、、分からないって、、、ごめん、、ね」

そう言うと母は、泣き崩れた。

「何となく、そんな気はしてた。

最近体調良くないから。

でも、私死なない。

まだ、死ねない。

姫(ひいな)と約束したから、、、『一緒にケーキ食べる』って」

だから、まだ死ねない。

「強くなったのね、、、ずっと、子どもとばかり思ってたけど、とっくの前に一人前の母親になってたのね」

涙を拭いながら、母はそう言った。

「ううん、強いんじゃないよ。

強くなれたんだよ、姫(ひいな)がいてくれたから」

きっと、姫(ひいな)がいなかったら、強くはなれなかったと思う。

お母さんやお父さんに、守られるだけの人間だった。

でも、今は違う。

私にも、守りたいものがある。

守りたい笑顔がある。

守りたい人がいる。

だから、強くなれた。

優しくなれた。

私は、そう思う。

「そうね」

そして、母は優しく微笑んだ。