そしてそれは雨に濡れていたものの、ふわりと彼の優しい香りとぬくもりが感じられダルドの冷え切った心と体を優しく包んでいく。
「風邪をひいてはいけない。ここは彼らに任せて先に帰ろう」
そう言うキュリオは家臣のひとりを呼び寄せ、言葉を受け取った男は深く一礼し職務へと戻っていった。
「空を移動しようと思うのだが、君は平気かい?」
振り返ったキュリオに問われ、ダルドは雨の降り続く闇の深い空を見上げた。
「僕は……晴れた日の悠久の空が好きだ。だから――……
キュリオの瞳を見ていれば、なにも怖くない」
ダルドの言葉に微笑み頷いたキュリオ。
そして恐らく王である彼に導かれ、抱き上げられたダルドの体はゆっくり上昇しはじめる。
幸運にもキュリオに救いの手を伸ばされ、新たな人生を歩むことになった人型聖獣のダルド。
(キュリオ……この悠久の王様……)
無言のまま見つめてくる銀の瞳に気づいたキュリオは思いついたように言葉を発した。
「そう言えば君の名をまだ聞いていなかったね。教えてくれるかな?」
「……僕はダルド、北の大地から来た……銀狐(シルバーフォックス)……だった」
自分の意志とは無関係に人型聖獣へと進化してしまった彼。そしてそれが不本意だったであろうことは、陰った表情と消え入りそうな語尾から容易に察しがついた。
「ダルド、君はもうひとりじゃない。どうか私を頼って欲しい」
慈悲にあふれたキュリオの眼差しに再びダルドの目頭が熱くなる。
「……キュリオ……ッ」
偉大な王の胸の中、心を開いた人型聖獣がひとり。
嗚咽を漏らしながら頬を濡らす彼の、辿ってきたであろう辛く長い棘の道。
それらに終止符を打つべく、キュリオは彼の身の置き場として自身の城を選んだ。
――雨煙が漂い頬に感じる冷気が一層鋭さを増すなか、やがて姿をあらわしたのは――……
「ダルド、あれが私の家だ」
「……家……? あれが、キュリオの……?」
まるで月の光を宿したかのような優しい輝きを発する巨大な建造物が視界いっぱいに広がりを見せる。
「ここには私以外の人間もたくさん住んでいるが、なにも心配はいらないよ」
「……キュ、キュリオ以外の……っ人間、が……?」
急激に気落ちたダルドの耳はまたも怯えたように垂れ下がり、銀色の瞳は戸惑うように揺れ動いている。
「あぁ、変わり者が多いが、皆快く君を受け入れてくれる」
<慈悲の王>であるキュリオの意志に反する者は城仕えを許されるわけがなく、主(あるじ)である彼の信頼と信用を得た者ばかりが揃っているのだから、ダルドにとってこれ以上にない安息の地となるに違いない。
「……う、うん……」
(キュリオの、家族もいるのかな……)
野生の銀狐(シルバーフォックス)だったダルドには王に対する知識があまりない。
まさか自分が生きてる間その王と巡り合うとは夢にも思わず、どこか現実味のない雲の上の存在だと思っていたからだ。
「そろそろ降りようと思うのだが、心の準備はいいかな?」
ダルドの顔を覗き込むキュリオが気遣うような優しいまなざしを向けてくる。
「……だいじょうぶ、だと……おもう」
ぎこちなく答えたダルドは緊張からか、わずかに体を強張らせ、眼下に広がるキュリオの”家”を期待と不安が入り混じる複雑な想いで見つめていた――。
「風邪をひいてはいけない。ここは彼らに任せて先に帰ろう」
そう言うキュリオは家臣のひとりを呼び寄せ、言葉を受け取った男は深く一礼し職務へと戻っていった。
「空を移動しようと思うのだが、君は平気かい?」
振り返ったキュリオに問われ、ダルドは雨の降り続く闇の深い空を見上げた。
「僕は……晴れた日の悠久の空が好きだ。だから――……
キュリオの瞳を見ていれば、なにも怖くない」
ダルドの言葉に微笑み頷いたキュリオ。
そして恐らく王である彼に導かれ、抱き上げられたダルドの体はゆっくり上昇しはじめる。
幸運にもキュリオに救いの手を伸ばされ、新たな人生を歩むことになった人型聖獣のダルド。
(キュリオ……この悠久の王様……)
無言のまま見つめてくる銀の瞳に気づいたキュリオは思いついたように言葉を発した。
「そう言えば君の名をまだ聞いていなかったね。教えてくれるかな?」
「……僕はダルド、北の大地から来た……銀狐(シルバーフォックス)……だった」
自分の意志とは無関係に人型聖獣へと進化してしまった彼。そしてそれが不本意だったであろうことは、陰った表情と消え入りそうな語尾から容易に察しがついた。
「ダルド、君はもうひとりじゃない。どうか私を頼って欲しい」
慈悲にあふれたキュリオの眼差しに再びダルドの目頭が熱くなる。
「……キュリオ……ッ」
偉大な王の胸の中、心を開いた人型聖獣がひとり。
嗚咽を漏らしながら頬を濡らす彼の、辿ってきたであろう辛く長い棘の道。
それらに終止符を打つべく、キュリオは彼の身の置き場として自身の城を選んだ。
――雨煙が漂い頬に感じる冷気が一層鋭さを増すなか、やがて姿をあらわしたのは――……
「ダルド、あれが私の家だ」
「……家……? あれが、キュリオの……?」
まるで月の光を宿したかのような優しい輝きを発する巨大な建造物が視界いっぱいに広がりを見せる。
「ここには私以外の人間もたくさん住んでいるが、なにも心配はいらないよ」
「……キュ、キュリオ以外の……っ人間、が……?」
急激に気落ちたダルドの耳はまたも怯えたように垂れ下がり、銀色の瞳は戸惑うように揺れ動いている。
「あぁ、変わり者が多いが、皆快く君を受け入れてくれる」
<慈悲の王>であるキュリオの意志に反する者は城仕えを許されるわけがなく、主(あるじ)である彼の信頼と信用を得た者ばかりが揃っているのだから、ダルドにとってこれ以上にない安息の地となるに違いない。
「……う、うん……」
(キュリオの、家族もいるのかな……)
野生の銀狐(シルバーフォックス)だったダルドには王に対する知識があまりない。
まさか自分が生きてる間その王と巡り合うとは夢にも思わず、どこか現実味のない雲の上の存在だと思っていたからだ。
「そろそろ降りようと思うのだが、心の準備はいいかな?」
ダルドの顔を覗き込むキュリオが気遣うような優しいまなざしを向けてくる。
「……だいじょうぶ、だと……おもう」
ぎこちなく答えたダルドは緊張からか、わずかに体を強張らせ、眼下に広がるキュリオの”家”を期待と不安が入り混じる複雑な想いで見つめていた――。



