ジルから受け取ったミルクのボトルを布に包み、広間へ顔をのぞかせたキュリオ。するとすぐに家臣のひとりが気づき、足早に近づいてきた。

「よかった、キュリオ様! お部屋にいらっしゃらないのでどちらにいかれたのかと……」

「ちょっと用事があってね。ジルの所に行っていたんだ」

 小さな布に包まれたボトルを持ち上げてみせるキュリオの仕草にほっと溜息をついた彼は、食事の用意が整った席へとキュリオを案内する。

「なるほど! 料理長のところにおいででしたか。彼に用がおありでしたら私どもが伝えに参りますので、いつでもお呼びつけくださいませ!」

 そう言って振り返るこの男は、人好きする笑顔が目元に笑い皺をつくり、彼の内面が人相にそのままあらわれたような温厚で気の優しい家臣だ。

 ジルほどではないが、中年と呼ぶにふさわしい年頃のこの男ともキュリオは付き合いが長かった。それだけ長くこの城とキュリオに仕えているということだが、彼らはキュリオのように命が長いわけではない。人の一生分の時間が過ぎてしまえば、やがて死が訪れ……永遠の別れがくる。

 ――いまから五百年以上も昔。
 キュリオが王に即位して間もないころ、頭では理解しているものの心が受け入れられず……そのことで辛い思いをしたことが何度もあった。だがそれが自然の摂理だと考えてしまえば理性が働き、すぐに王として気丈に振る舞うことが出来るようになってしまったのだ。

 しかしそんな自分に彼はいつしか悩むようになる。

(……私は冷酷な人間なのだろうか……)

 何度、自問自答してもこたえは見つからない。

 いつか同じ境遇の他国の王や、先代の王たちの話が聞いてみたいと思っていたキュリオは運良く、自分より遥かに長く生きるひとりの王と接点を持つことになるのだった――。