「…………」

だが彼は無言のまま大輪の花を見つめ、しばらくの沈黙の後ようやく口を開いた。

「この花がここに生息しているとは……正直驚いた」

「……それはどういう意味だい?」

にわかに視線を鋭くさせたキュリオ。これ以上聞いてはいけないような、嫌な胸騒ぎがどんどん大きくなっていく。

「俺の知るこの花はもう遥か昔に枯れてしまったんだ」

「どこでこの花を?」

遠い記憶を口にすると、食いつくように質問を浴びせたキュリオに驚いたような反応を見せるエデン。

「俺の国でだが……」

「…………」

すると今度は何かを考えるようにキュリオが押し黙ってしまった。

「この花がこれほどまでに美しく咲き誇るということは、悠久の環境が一番適しているのだろう。稲妻の光ではすぐに枯れてしまったよ。本当に可哀想なことをした……」

含みを持つようなエデンの言葉。哀愁を漂わせた彼は愛しいものに触れるようにそっとその花びらを指先で撫でる。

「そういえばキュリオ殿の書簡の話だが、無事解決されたのか?」

「あぁ、それはもういいんだ。確認したかっただけだからね」

「そうか。急用があったばかりに申し訳なかったと気がかりだったんだ」

エデンはキュリオの返事を聞いて安心したようにゆっくり瞳を閉じた。そんな彼の頬を優しい風がなでるように駆け抜ける。すると、その風に乗って上機嫌な赤子の笑い声が聞こえてくる。

「きゃはっ」

「…………」

(これはアオイの声……)

口元に笑みを浮かべながらキュリオは背後にある城を見上げ、彼女の姿を探した。しかし、建物内にいるため姿までは確認できない。少し残念に思っている彼の横顔を不思議そうにエデンが見つめている。

「キュリオ殿は子育て中なのか?」

彼の目には赤子の声に熱視線を向けるキュリオの様子がそう映ったらしい。その言葉にふっと笑ったキュリオは”その通りだ”と穏やかな表情を浮かべる。

「エデン、君には恋人がいたのだったかな?」

「……あぁ」

あまり浮かな表情を浮かべるエデンだが、キュリオは気づいていない。

「実は私にも特別な女性が現れてね」

ポツリポツリと切り出すキュリオにエデンは驚いた表情を向けた。

「偉大な悠久の王の心を虜にする女性が現れるとは……いやしかし、恋をすると目にするもの全てが彩を持ち始めるだろう?」

「……恋……?」

エデンは心からキュリオを祝福するように嬉しそうに笑っているが、彼とは対照的にキュリオは考えるように顎に手を添え、じっと足元を見つめている。まさかのエデンの発言に深く考え込んでしまったようだ。