大自然のなかに静かに佇む壮大な神殿の前にたどり着いた光の精霊とキュリオ。

『……』

しかし、光の精霊は無言のままだ。
おそらく彼はこの中にいないのだろう。

『大樹の方におられるのかもしれません』

後方のキュリオの表情を伺い見ると眉間に皺を寄せた彼は、悲しそうに幼子の額へ頬を寄せている。わずかでも自分のぬくもりを与えようとする切ないその姿にかける言葉がない。
すると、突如神殿の中から姿を見せたのは水の精霊だった。

『……これは悠久の王……』

彼女は透けた長い水色の髪に憂いを秘めた眼差し、そして胸元から水のヴェールを纏ったような細身の女性の姿をしている。
優しそうな彼女の声に顔をあげたキュリオだが、悲しそうな表情のまま口を開いた。

「エクシスを探している……もう時間がないんだ」

はっとした彼女もやはり彼の腕の中にいる幼子へと目を向けた。

『……申し訳ございません。わたくしにも王の居場所までは……』

すまなそうに語尾を下げた水の精霊の言葉にキュリオは肩をおとした。

「そうか……」

その姿に唇を引き結んだ彼女は意を決したように答えた。

『一刻を争うのであれば、どうぞ貴方様の神剣をお使いください』

水の精霊の言葉に目を見開いたキュリオ。

「……神剣を……?」

相手国で神具を召喚すること、すなわちそれは戦いの意志があることを示す。合図のつもりが他の精霊の誤解を招き、彼らが悠久を攻め込まないとも限らない。

(悠久の民をとるかアオイの命をとるか、ということか……)

激しく動揺を見せるキュリオの手に力が籠る。

『……悠久の王。門には私が参ります』

「しかしっ……」

キュリオの胸中を理解した光の精霊はそう言葉を残すと、急いで来た道を引き返していく。

『彼女に任せておけば問題はないかと』

キュリオの返事を聞かぬまま立ち去った光の精霊を見送りながら、女神のように微笑む水の精霊。

『さぁ、お早く』

「……光の精霊殿、水の精霊殿……感謝する」

キュリオのその言葉を聞いた水の精霊は祈るように頷いた。精霊王と唯一交友のある悠久の王はやはり特別なのかもしれない。

アオイの体を左手で抱いたままのキュリオが右手を頭上に掲げると――

(必ず君を助けるっ……待っていてくれアオイ!!)
キュリオの心に共鳴し、銀色の光が流星のごとく彼の手中に次々と集まってくる。

その力に吸い寄せられるようにあたりには地鳴りが響き、爆風がキュリオの周りを瞬く間に包み込んでいく――


――次の瞬間……


――――ドォンッ!!――


とてつもない重力が彼の手に圧し掛かり、
手ごたえを感じたキュリオが勢いよく手を握りしめ振り下ろす――


――銀色の聖なる光があたり一面を照らし、堂々たるその姿を現したのは彼にしか扱えぬ紛れもない悠久の王の神剣だった――

そしてキュリオは祈りを込めて神剣を掲げる。


(――頼むエクシス……応えてくれ……!)


――巨大な光の柱が精霊の国の中心で立ちあがる。
己の存在を知らしめるような五大国・第二位、悠久の王・キュリオの輝き――

目がくらむようなその眩(まばゆ)い輝きに遥か遠くで瞳を閉じていた金の髪の青年はゆっくり目を開いた――。