思わず心配になり、起こそうかと迷いながらキュリオはアオイの顔を覗き込んでいる。

――キュリオの言うとおり、アオイは夢を見ていた。


???"――ずっと貴方を想っています――"


 沈みゆく闇のなか、感じるのは弱まる鼓動と己の頬を伝う熱い雫だった。

 全身の痛みに耐えながら、それでも尚、愛しいあの方の顔をもう一度……と、重い瞼を懸命に持ち上げる。


???"(……愛しています……様、……)"


 もはや声を上げることもできず、『私』は心の中で何度も愛の言葉を繰り返している。
やがてかろうじて薄く開いた瞼の隙間から、美しい翼が見えた。

 しかし逆光なのか、その翼をもつ彼の顔が影になり暗く霞んでしまっている。

 『私』は残る力のすべてで彼の顔に触れようと左手を伸ばした。
 おそらく自分の血だろう。自身の手は真っ赤に染まっており、やがて指先に感じたのは愛しい彼の顔の感触と、彼の熱い涙だった――――。

???(も、う……なにも見えない、聞こえ、ない……)

 徐々に冷たくなっていく体に重くなっていく思考。
 闇に意識が飲みこまれていくその瞬間、別の声に目を見開いた。

「アオイ?」

 ハッと大きく息を吸い込むと、それまでの息苦しさはもう感じられず鉛のような体の感覚も消え去っている。

「……?」

 夢と現実の区別がつかないのか、焦点の合わない彼女の視線はあたりを見回し、しきりに何かを探しているように見えた。

「こんなに汗をかいて……怖い夢でも見ていたのかい?」

 キュリオのひんやりとした指先がアオイの額からこめかみへと優しく流れ、不安げに揺れる小さな彼女の目元を優しくなでる。

「……ぅっ、」

 いまにも泣いてしまいそうな声をあげ瞳を潤ませるアオイ。

「大丈夫。私がついている」

 彼女を落ち着かせようと、汗ばむ体を抱き寄せ背中をさする。
 すると、アオイの手がキュリオの襟元を懸命に握りしめ声を押し殺すように泣いた。

「……夢の中でもこうしてお前を抱きしめることが出来たらいいのに……」

 切なく揺れるキュリオの心はたったひとり、アオイという愛しい存在だけを想い震えるのだった――。