何ともいえない微妙な空気が流れる。
静まり返ったこの空間に、


「一樹ぃー、まだぁ?」


語尾を伸ばして甘えたような口調の声が入り込む。
大方木村と約束でもしていた子だろう。


助かった…
そうかもしれない…が、違うかもしれない。不確かなこの感情を、自分でも持て余しているのに。
詮索されても、答えられない。
早く木村がこの場から居なくなることを願い、女の子の方へ行くように促す。


「呼んでる…」


木村は立ち上がり、その子の元まで行く。


「ごめん、今日神山と約束してたの忘れて
てさ~、この埋め合わせはちゃんとする
から!今日は許して」


「は?」と、呟いた俺の声を掻き消す程の
「えーー、楽しみにしてたのにぃ~」


頬を膨らませ、上目遣いで木村を見上げる女の子。その頬を優しく触れる木村。


「本当に、ごめん」


「埋め合わせ、期待しとくからね~」


そう言って講話室を出ていった。


「約束…した覚えねぇけど…」


「ま、してないからな。とりあえず、昼飯
行こうぜー」


荷物を手に取り、空いている手で俺の肩を掴む。


「逃げられると、思うなよ」


口の橋を上げて、意地悪げに笑う木村…
その顔が昨日の森田さんと重なる。


「…分かったよ」


仕方ないと諦めて、俺も席を立つ。