【side 真琴】


永遠に続けばいいと、願ってしまう程……
修二くんのキスは優しい。
修二くんの腕の中に包まれると、
身も心も温かくて、離れたくないと思ってしまう。
修二くんが、ぎゅっと抱き締めてくれた後、身体が離れた瞬間、寂しさを感じた。


「……今日は、もう帰りましょう。
このままじゃ、俺……真琴さん離したくな
くなるし。
荷物……俺が取って来て、先に帰ること
森田さんに 伝えて来ます」


そう言って、修二くんは私の頬に触れる。


「真琴さんは、もう一度パウダールームに
寄ってから、入り口に来て下さい。
俺もすぐ、行くんで」


何でパウダールーム?
と、思ったけど、彼が意図したことを瞬時に理解した。
号泣したんだ……私……
泣き腫らした顔では、
さすがに外は歩けない。
修二さん気遣いを感じて、また心惹かれてしまう。


「……はい」


返事をしてすぐ、修二くんが頬にキスを落とす。
脣に何度もキスをしたのに、
修二くんに触れられると、
どきどきが止まらなくなる。


修二くんに見送られ、パウダールームに入る。
鏡に映る自分の姿に……茫然とする。
こんな涙でぐしゃぐしゃな顔を、好きな人に晒していたのかと思うと、恥ずかしくて仕方ない。
ハンカチを濡らして顔を拭き、
化粧を直す。
口紅を脣に当て、手が止まる。


修二くんと……キス……しちゃった……
しかも、自分から……誘った……
何て大胆なことしたのっ、私‼


でも……嬉しかった。
とても……


気合いを入れて化粧を直し、
入り口へ向かう。


この後……ちゃんと言わなきゃ……
修二くんが、どう思うか……怖い。
嫌われるかもしれない。
でも、逃げないで……伝えなきゃ……


そんな事を変えていたら、


「真琴さん。お待たせしました」


修二くんの声がして、振り向く。
数分しか離れていないのに、修二くんの姿を目にして、自然と笑顔が溢れる。
修二くんが、私を見たまま動きを止める。


「……修二くん?」


声を掛けると、


「……すみません。
真琴さんがあんまり可愛くて、
見惚れていました」


ダイレクト過ぎの殺し文句。
瞬時に赤くなる顔。


「……またっ、そういうこと言うっ‼」


修二くんと居ると、平常心でいられない。
まっすぐの言葉は、嬉しい。
嬉しいのに、恥ずかしくて……
俯いてる私の耳元で、


「照れてる真琴さんも可愛い」


「……っ‼」


更に追い討ちを掛ける。
可愛いを連発は、ずるいよ……修二くん。


修二くんとアラカルトの外へ出る。
気を引き締めて、修二くんを見つめる。


「……修二くん、
遊園地での約束、覚えていますか?」


「覚えてますよ……でも、今日は色々あって
疲れていませんか?
明日からランチ帯に入るし、時間が早い
分、早めに休んだ方が良いと思います。
バイトの後、大学あるんで……その後でも
良ければ、話しませんか?」


修二くんの返答は、多分……
ううん、私のことを考えての言葉。


「でも……」


「今日の約束が、明日になるだけです。
ね、真琴さん」


「……分かり……ました」


本当は今日、伝えたかった。
先に気持ちを伝えてしまって、後だしみたいで……落ち着かない。
でも、そんなのは私の勝手な事情……
明日のことを考えるなら、修二くんの言うことが正しい。


「はい、真琴さん」


「え……?」


沈みかけた私の目の前に、修二くんの手が差し出される。
修二くんの意図が読めず、困惑していると、その右手が私の左手を握る、


「こうするんですよ……嫌ですか?」


「嫌じゃ……ないです」


「良かった」


穏やかで優しい修二くんの笑顔。
修二くんの大きくて温かい手。
そのふたつで、気持ちが浮上する。
とても満ち足りた心が、
次の瞬間……
黒く、暗い闇に落とされるなんて、
考えもしなかった。