【side 修二】


お互いの想いを重ね合わせるように、
何度も繰り返したキスを止めて、
最後にもう一度、
ぎゅっと真琴さんを抱き締め……
ゆっく身体を離す。


もっと、ずっと真琴さんに触れていたい。
そんな気持ちを、何とか追いやって……


「……今日は、もう帰りましょう。
このままじゃ、俺……真琴さん離したくな
くなるし。
荷物……俺が取って来て、先に帰ること
森田さんに 伝えて来ます」


そっと真琴さんの頬に触れる。


「真琴さんは、もう一度パウダールームに
寄ってから、入り口に来て下さい。
俺もすぐ、行くんで」


「……はい」


真琴さんの頬に軽くキスを落とす。
真琴さんがパウダールームに入ったのを確認してから、宴会場に戻り、自分と真琴さんの荷物を手に取る。
先に帰ることを、谷山に伝える、


「えー‼二次会行かないんすかっ!?」


谷山が馬鹿でかい声で反論する。


「……お前、明日大学あるだろ?
程々にしろよ」


森田さんに伝えてくれと、一言残し、
その場を後にする。
急いで入口を目指す途中、
『スタッフ以外立入禁止』と書かれたドアから出て来た森田さんと遭遇する。


「あれ?もう帰るの?」


俺が抱える、
ふたり分の荷物に視線を向ける森田さん。


「はい、真琴さんは俺が送ります。
明日から、
ランチの研修でいいんですよね?」


「うん、頼むね」


「はい……それじゃ……」


「修二くん」


別れの挨拶をしようとし俺の言葉を遮る、森田さん。
真摯な眼差しを向けられる。


「……近いうち、シフト前でも後でもいいか
ら、俺に時間くれないかな?
話したいことがあるんだ」


「分かりました。
それじゃ、お先に失礼します」


森田さんに頭を下げる。


「うん、気を付けて。また明日ね」


森田さんの雰囲気がいつもと違っていることに、疑問が浮かぶが、真琴さんを待たせている為、森田さんに背を向け歩き出す。


森田さんが俺に話したいこと……
何だろう?


入り口に近付くと、
所在無げに佇む真琴さんが目に入る。
真琴さんがそこに居る。
ただ、それだけで……心が踊る。


俺……真琴さんとキス……したんだよな……


やばい……嬉しくて、自然と顔がにやける。
締まりのない顔を引き締め、真琴さんに近付く。


「真琴さん。お待たせしました」


俺の声に、振り向いた真琴さんの、
はにかんだ笑顔に見惚れる。


好きな人に好きだと言われて、
正直……こんなに嬉しく思ったことは 、
なかった。
真琴さんが泣いていると、切なくなって……
苦しくて……
泣き顔も綺麗だけど、
やっぱり好きな人には笑顔で居てほしい。
俺の傍で、笑っていてほしい。
そのためなら、何だってする。
何でも出来る。


「……修二くん?」


真琴さんを見つめたまま固まっていた俺。
真琴さんの呼び掛けで、我に返る。


「……すみません。
真琴さんがあんまり可愛くて、
見惚れていました」


思っていることを、そのまま口にする。
俺を見上げていた真琴さんが、
勢いよく俯いて、顔を隠す。


「……またっ、そういうこと言うっ‼」


ああ……照れてる。可愛い……


少し屈んで、
真琴さんの耳に口を寄せ囁く。


「照れてる真琴さんも可愛い」


「……っ‼」


俺の言葉に、可愛い反応を見せてくれるのが嬉しい。
俺をもっと、意識してほしい。
真琴さんの心を、全て俺が独占したい。


真琴さんの肩にそっと手を添え、店の外へ出る。
店の前で、真琴さんが俺を見上げ、真っ直ぐ見つめたまま……俺に問う。


「……修二くん、
遊園地での約束、覚えていますか?」


「覚えてますよ……でも、今日は色々あって
疲れていませんか?
明日からランチ帯に入るし、時間が早い
分、早めに休んだ方が良いと思います。
バイトの後、大学あるんで……その後でも
良ければ、話しませんか?」


遊園地での衝撃から始まり、
見知らぬ男に襲われ……
2日続けて、俺に泣かされた真琴さんの疲労を考えると、今無理するのは得策じゃないと、そう思った。
真琴さんの話し……過去のこと。
俺に打ち明けることも、相当心に負荷が掛かる筈。


「でも……」


「今日の約束が、明日になるだけです。
ね、真琴さん」


「……分かり……ました」


渋々納得してくれた真琴さん。
ここで押し問答にならないのが、
やはり、大人の女性なのだと思う。


重い空気を打ち破るよう、


「はい、真琴さん」


真琴さんに右手を差し出す。


「え……?」


面食らってる真琴さんの左手を取り、
優しく握る。


「こうするんですよ……嫌ですか?」


「嫌じゃ……ないです」


「良かった」


真琴さんと手を繋ぎ、歩き出そうとしたところで、人にぶつかる。
真琴さんに集中しすぎて、
周りを見てなかった。


「すみません」


「いや、こちらこ……そ」


目の前には、ブランド物のスーツを着た男性。男性は、言葉の途中で固まり、目を見開いている。
その視線は、
真琴さんのに向けられていた。
同時に、俺の手を握った真琴さんの手に、
ぎゅっと力が入る。


「……ま……こと……?」


「……蓮……どう……して……」


顔面蒼白のままの真琴さんに対し、
男性は穏やかな笑みを浮かべる。


「ずっと……真琴を探していたよ……
真琴……今時間ないかな?
もう一度、ちゃんと話をしよう」


「……あ……なたと……話すことことなんて、
ない……話して何になるの?」


真正面から、男性を険しい顔で睨み付ける真琴さん。
だけど、俺の手を握る、真琴さんの手が震えているのが、俺には分かった。



きっと……
この人が真琴さんの……過去──