荒い息で、どんどん近付いてくる顔。
逃げたくても逃げられない恐怖と、
嫌悪感。
強く掴まれた腕に、痛みを感じる。


修二くんっ‼


彼の名を再度心の中で呼んだ。
次の瞬間──


拘束が解け、
力強くて優しい腕の中に居た。


来て……くれた……


恐怖から抜け出したことの安堵と、
修二くんが来てくれたことの、嬉しさで胸がいっぱいになる。


「いっ!?痛い痛い‼」


男の悲鳴が聞こえてはいたけど、
今はまだ、この腕の中に居たい。


「おい、てめぇ……酒に酔った勢いで、
何してくれてんだ?俺の大切な人に何して
んだって訊いてんだろっ‼」


初めて訊く、修二くんの本気の怒声。


私のこと、大切な人って言ってくれた。


「嫌がる女に無理強いすんじゃねぇ‼」


何かが床に打ち付けた音がした後、


「ひー‼す、すみませんでしたぁ‼」


男が、
物凄い勢いで走り去ったのが分かった。


私の肩を抱く、修二くんの腕の力が緩む。


「大丈夫ですか?真琴さん」


私を、気遣う優しい修二くんの声。


『大丈夫。助けてくれてありがとう』


そう言って、離れなきゃいけないのに……


修二くんの胸元の服をぎゅっと掴んでしまう。


「……あー、俺も怖かったですよね……
すみません」


違うの。
修二くんが怖いなんて思ってない。
ただ……
離れたくないだけ。
修二くんの腕の中に、ずっと居たい。
修二くんの優しさにつけこんで、
なんて、浅ましいんだろ……私。


修二くんの反対の手が私の頭を優しく撫でてくれる。
私を落ち着かせようとしてくれている。
逆効果だよ……修二くん。
もっと離れたくないって、思ってしまう。