「お疲れ~」


ノックと同時にそう声を掛け、
スタッフルームに入る。


「遅かったっすね、修二先輩?」


私服に着替えて、賄いに食らい付きながら、谷山が言う。


「ああ、オーナーに報告と…少し話があった
んだ」


そう谷山に、返事をしながら香坂さんに視線を向ける。
俺の視線に気付いた香坂さんが、


「神山さんの分、タッパーに入れておきま
した。苦手なものとかあったら、ごめん
なさい」


そう言ってタッパーを手渡してくれる。
その優しい心遣いが、嬉しい。
俺のために、俺のことを考えてしてくれたことが…嬉しくてたまらない。
香坂さんにしてみれば、些細なことで…
相手が俺じゃなくても…してくれることなのかもしれない…
それでも、心が温かくなる。


「ありがとうございます。
俺、好き嫌いないんで、大丈夫です」


笑顔でタッパーを受け取ると、
一瞬固まってた香坂さんが、思い出したように…


「………そ…それじゃ、私は…」


「香坂さん、少し待っててもらって良いで
すか?着替えてくるんで…」


「…えっ…!?あ……はい…」


『帰る』と言おうとしていた香坂さんの
言葉を遮り、
アコーディオンカーテンで仕切った更衣室に向かう。
急いで私服に着替え、帰り支度を済ませる。香坂さんが手渡してくれたタッパーを大事に鞄にしまう。
これ見て、絶対部屋でにやけるんだろうな…俺は……


「お待たせしました」


「…え…?」


上着をはおり、すっかり帰り支度を済ませた俺を見上げる香坂さん。
説明しないのは策略っぽいけど、
言ったところで、断られるだろう…


谷山に視線を向け、


「谷山!分かってると思うけど、
茜ちゃん、ちゃんと送ってけよ」


「了解でーす。お疲れ様です、修二先輩、
香坂さん」


「お疲れ様です」


「…お、お疲れ様です………??」


谷山と茜ちゃんが同時に挨拶をする。
面喰らってる香坂さんは、された挨拶を返すものの、意味が分からないという表情を浮かべている。


「最後に出る人、オーナーに声掛けてから
帰れよ!じゃ、お疲れ」


スタッフルームにいる全員にそう言い、
香坂さんに向き直る。


「行きましょうか」


「え…あの、神山さんっ!?」


先にスタッフルームを出て、裏口に向かう俺の後ろを慌てて追い掛ける香坂さん。


強引…だよな…
でも、行動するって決めたんだ。