森田さんの言葉に、姿勢を正す。


「香坂さんの実習の経過についてですが、
ディナー帯はもう一人でも問題ないと
思います。来週からランチに切り替えて
良いかと…」


「そっか…そうなると指導は…」


森田さんが何を言うか分かり、


「いえ、引き続き俺が入ります」


俺の言葉に森田さんが驚く。


「大学は?」


「来週は午後からの講義だし、そうなる様
調節したので問題ありません」


これは本当…
香坂さんの仕事の上達を見ていて、
ランチ帯に入って良いように、
レポートや、課題を前倒ししたのだ。


ほんの数時間でも、
一緒にいる時間を共有したい。
それを、他の誰にも譲りたくない一心で…


「修二くんが問題ないなら、構わないよ!
でも………ふーん…」


森田さんがさっきまでの穏やかな笑顔ではなく、含み笑いでにやついた表情を浮かべる。
俺が意図したものに、気付かれたのだと分かってはいたが、


「…何ですか?」


「んー…独占欲?」


あまりに的確…且つストレートな言葉に、
自分の顔が赤くなるのが分かる。
それでも、応援すると言ってくれた…
この人の前で、もう、自分の気持ちを抑える必要などない。


「…そうですね…独占欲です」


「あらら、認めちゃうんだ?」


「認めますよ。指導係継続したくて、
かなり今週は根詰めて、
大学の方進めたんで…
勿論、仕事はきっちりこなします」


全てさらけ出した俺に、森田さんは優しく微笑み、


「何か…修二くんの新しい一面を
見た気がするよ…実習の件は了解だよ。
修二くんから真琴に伝えておいてね」


「分かりました。では、俺はこれで失礼し
ます。エスプレッソ…ご馳走様でした」


「うん、また明日ね、お疲れ様!」


一礼してキッチンを後にする。
廊下に出て直ぐ、壁に背を預け、深く息を吐き出す。


「ふうぅーーー」


めちゃめちゃ…緊張した。
人と向き合って、こんなに緊張したのは
初めてってくらい…緊張した。
新しい一面…か…
そうだよな…今までの俺では考えられない様なこと…してるよな…


でも、良かった。
森田さんに認めてもらえた…


彼女の隣に、
俺がいる未来があっていいと───


なら、これからは
行動有るのみ‼


「よしっ‼」


気合いを入れ、
壁から離れ、スタッフルームに向かう。