木村の助言のおかげで、
気持ちを切り替えられた俺は、
バイトの時間まで一旦アパートに戻ろうと思い、大学を出た。
大学通りを歩きながら、
何となく向けた視線の先…俺も頻繁に利用するカフェに、見知った顔を見付ける。


「…あいつ…」


同じ大学の後輩で、数ヶ月前にドルチェに入店したホール担当の谷山 潤──
女の子とふたりでお茶してる様子は、
傍から見たら、ただ仲良くデートしてるだけのカップルにしか見えないのだが…


始終谷山を見つめ、
頬を赤らめている女の子に見覚えがある…反対に少し困惑気味の谷山の表情に、違和感と疑念を抱きつつ、その場を後にする。


部屋で時間を潰した俺は、
金曜日ということもあり、
少し早めにドルチェに向かった。
スタッフルームのドアををノックし、挨拶をしながらドアを開ける。
既に制服に着替えた存在が視界に映る。


「おはようございます‼修二さん」


「おはよう!茜ちゃんも今日は夕勤だった
んだね?」


「そうなんです。今日は金曜日だから、
きっと忙しいですね‼」


去年入店した水城 茜──ホール担当。
高校卒業して直ぐにドルチェで働き始めたため、今ではオールの時間にシフトをこなせる戦力の存在。


「久々にホールで修二さんと一緒だから、
嬉しいです!」


「あー…確かに久々かもね。
茜ちゃんがホール に居てくれたら、
俺安心してキッチン入ってたから」


俺の言葉に嬉しそうに微笑む。


「…そういえば、新しい方…香坂さん?に、
さっき挨拶されました。
多分、ひとりで開店準備してると思うので
私もホールに行きますね」


「うん、宜しくね」


制服に着替え、経過報告をしようと、
事務所を訪れるも、オーナーの姿が見当たらない。


この時間は割りと、事務所にいるこどが
多いのにな…


そう思いながらオーナーを探す。
カウンターに居るのを発見して、
声を掛けようとしたが、オーナーが真剣にたた一点を見つめている姿が目に入り、
声を掛けそびれる。
その視線の先には──


香坂さんが居た…