【side 修二】


香坂さんが入店してから3日目──
ディナー帯の流れや仕事をほぼ完璧に覚えて、俺が近くに居なくてもそつなくこなしている様子を、少し離れた場所から見つめていた。
指導係りなんて任命された俺でも、
3日で仕事を覚えきれた記憶はない。


香坂さんの立ち振舞いに、
気を抜くとただ見とれてしまうことが
多々あり…仕事に私情を挟むべからずと、
自分を叱責し続けてはいるものの…
気持ちを自覚してしまった以上、
どうしたって、意識と視線を持ってかれる。


一組の会計を済ませて、
香坂さんがカウンターに戻ってくる。


「もう、完璧ですね!」


「え…そんなことないですよ、まだミス多い
ですし…」


両手をぶんぶん振って俺の言葉を否定する。
あー、そんな仕草も可愛いんですが…


「飲食店の経験あるんですか?」


「飲食店は初めてです。でも、けっ… こ…
かなり前にホテル勤務してたんで、
接客は好きですよ」


多分…今、香坂さんは言葉を選び直した。
その時、一瞬見せた陰りが気になったものの…それを俺が追求する資格はないから、気付かない振りをする。


「だから、所作が綺麗なんですね!
お客様を前にしても落ち着いてるし…」


「落ち着いてなんていませんよ~
神山さんの方が…」


そう会話していると、一組のお客が来店する。
同時に5番テーブルのお客が席を立つ様子が目に入る。


「俺行きます。5番テーブルのお客様の
お会計お願いします」


「はい!」


香坂さんに指示を出し、入り口へ向かう。
俺の方が…と言った香坂さんの後に続く言葉を気にしながら───


「有難う御座いました。
またの御来店をお待ちしています」


今日最後の客を見送り、
外の立て看板を店に入れようとしていたら、


「真琴ぉー」


香坂さんを呼ぶ森田さんの声で身体が硬直する。


「ちょっと、大ちゃんまだ勤務中っ‼」


そして香坂さんも森田さんを下の名で呼び返す。
3日前も、こんな場面に出くわした気がする。
ふたりが並ぶ姿は、
すごく絵になっていて、
とても割って入ることは出来なかった…