路地裏から出て、
暫く歩いていた足を止め、俺を振り返る。


『…木村』


神山に名前を呼ばれたことにも驚いたが、いきなり背中に手を伸ばされたことに…
もっと驚く。
軽く押し当てられた瞬間、ビリビリする痛みに襲われる。


『…っつ‼』


『受け身取る余裕もない程、
打ち付けられれば、そりゃ痛むわな…』


それを知ってる神山は全部見てたってことか…今更ながら、恥ずいかも。


『俺ん家ここ、手当てしてやるから寄って
けば? 』


『…え…いやいや『明日にひびくぞ』


俺の断りの言葉を遮り、有無も言わさず、
アパートの階段を上って行く。
助けてもらったことや、確かに背中じゃ
自分で手当てするのは難しい…
神山の申し出に甘えることにした。


神山の部屋は男の部屋にしては
小綺麗にしてて片付いている。
ソファーに座るように言われ、少ししてからマグカップを2つ持って来て、
1つを俺に渡す。
コーヒーの良い香りがする。


『サンキュー』


自分の分のマグカップをテーブルに置き、引き出しから救急箱を取り出す。


『背中見せて』


言われた通りに上半身の服を脱ぎ、
神山に背中を向ける。
神山の指先が患部に触れる。


『いっ⁉…冷たっ‼』


痛みと冷たさに思わす声が上がる。


『木村…右脇に体温計挟んで』


何故、ここで熱を測るか不思議に思いながら素直に従う。
ピピピっと体温計の音がしたので見てみると──


『何でっ!?』


38℃の数値に驚く。
さっきから俺…驚いてばかりなんだけど…
滅多に出さない熱。
俺、駄目なんだよね…
熱があるって分かると、途端に具合悪くなる。
手際よく患部に湿布を貼って、体温計を覗き込んだ神山。


『やっぱりか…かなり強打したせいで、
変色してるし、腫れてる。
打ち身が酷いと、発熱起こす時があるか
らな…本当は歩くのもキツかったんじゃな
いのか?』


仰る通りです。
でも、何つーか、
こうなったのは自分が悪い訳で…
キツイ、辛いなんて言うのはお門違いだ。


『木村、熱あって帰れないって家に連絡し
とけ。ダチのとこ泊まるって言えば心配か
けないだろ?明日は大学も休校だしな…』


淡々と話を進める神山。
神山の言葉に目を丸くするしかない俺。