「納得したか?」


「…うん…サンキューな」


結構…かなり、感謝してる。
これでやっと、スタートラインに立てたように思う。
霧がかかっていた空が晴れたみたいに──


「これからが楽しみだな」


さっきまでの真剣な表情から一変、
いつものにやけ顔で、そう言う木村。


「何で楽しみなんだよ」


「強いて言うなら、お前が楽しみだ」


「は?」


意味が分からない。


「いいんだよ、分かんなくて!
それより、想いを自覚した神山はどう、
攻めるつもり?」


どうって…
自覚したばかりの俺が、これからのことについて、考えている余裕などない。
でも──


「彼女と歩む未来を掴みたい」


俺が彼女を知りたいと思うように、
彼女にも俺を知ってもらいたい。
俺を知って、意識して、
そして…好きになってもらいたい。
今はただ、同僚だとしても…
いつかは──


「努力するよ」


そうなれるように──


「お手並み拝見だな」


「うるせーよっ!」


一瞬で恋に落ちるなんて…
そんな恋の始まりが、
俺に起こるなんて思わなかった。


今はまだ…
淡く灯った恋心。
それが───
胸を焦がす程に切なくて…
心を締め付けられる程に、苦しくて…
恋い焦がれてしまうものになるなんて──


この時の俺は知る由もなかった。